中朝事実
中朝事実
恒に蒼海の無窮を観る者は其の大を知らず、常に原野の無畦に居る者は其の廣きを識らず。
是れ久しうして馴るればなり。豈に唯海野のみならんや。 愚
中華文明の土に生まれて、未だ其の美を知らず
専ら外朝の経典を嗜み、嘐嘐として其の人物を慕ふ。
何ぞ其れ喪志なるや。抑も奇を好むか。将た異を尚ぶか。夫れ
中国の水土は萬邦に卓爾し、人物は八紘に精秀なり。故に神明の洋洋たる、聖治の綿綿たる。
煥たる文物、赫たる武徳、以て天壌に比すべし。
今歳冬十有一月
皇統の実事を編し、児童をして誦せしめ、其の本を忘れざらしむと云爾。
龍集巳酉 山鹿高興謹誌
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以上は山鹿素行の書である。
山鹿素行の命題は
「日本こそが中華」 である。
現代からすれば、奇異に感じる表現であるが、江戸初期の朱子学で統制された武士教育では、林羅山のように中国を極端に美化礼賛し、現実離れした中国贔屓、日本卑下に走る傾向があった。
これに対し疑念を呈し、日本の古典の記紀を検証し、一方実際の中国の有様と比較し、決して日本の文化、文明が中国に遅れをとっていない事、そして皇統などの面に着目すれば、日本の国体の方が優れていると指摘しているのである。
この事を象徴的に”日本こそが中華”という表現にしているわけである。
簡単に言えば
「もっと日本の伝統と歴史、個性に自信を持て」
という事になる。
戦前には山鹿素行-吉田松陰-乃木希典という文脈で語られる事が多かったと考えられ、皇国史観の基礎文献として広められていたのだろうと思う。